平井
タイコウで目利き見習いとしてやっていこうと決めた動機はなんですか?
大塚
いちばん心が動いたのは、生産者さんを大事にするところですね。私の父も職人系の技術者だったんです。小さいながらも会社を営んでいて。機械のポンプやボイラーの修理とか設置をやっていて。
平井
そうだったんですね。
大塚
「お父さんは技術者として日本で3本の指に入る腕の人だったんだよ」と、大人になって人から教えてもらいました。
平井
おぉ。すごいお父様だったんですね。
大塚
仕事はお客様や取引先あってのもの。真面目にやって良い仕事するのは当たり前。その上で対価をいただくというのが父の考えだったんですね。
平井
はい。
大塚
こちらがいくら良い仕事をしていても、それを買い叩くということは、まれにあったそうです。わたしも親が悔しい想いをしているのを見ていました。真面目にやっている人が馬鹿を見る世界はいやだな、というのは昔からあったんですね。
平井
はい。
大塚
タイコウの社長である稲葉が、「きちんとやっている人たちを正しく評価しなくちゃならないでしょ。そのために値切るなんてことはやっちゃいけないし、働きに見合った対価を支払うのは当たり前のことだ」と言っていて。私も思っていたことだったので。ここで働きたいと思えたのは、そこが一番大きかったですよね。
平井
子どものころに感じたことを、稲葉社長も同じように感じていたと。
大塚
こういう人なら、きっといいものをつくるんだろうなと。
平井
強い想いを持つほど、葛藤することもありませんか?
大塚
ありますよ!いっぱい!
平井
ははは、そうですよね。
大塚
このかつお節、見た目はいいけど、小さいヒビが入ってるな。でも出してもいいかな。…いやいや、だめだだめだ。そんなことすると、残念がるお客さんがいるかもしれない。だから絶対にだめだ!なんて。
平井
その葛藤は、わかる気がします。
大塚
会社経営でむずかしいこともたくさんあります。そういうときに、「ちょっと価格安くできませんか?」と仕入先に相談すれば楽になるかもしれません。だけどそんなことをやっていたら、これまでの信頼関係はすべてゼロになります。問屋は売るのが仕事。生産者はつくるのが仕事。生産者さんがつくってくれたものの価値を正しく判断して、それを一番ベストな状態で人に紹介するのが私たちの仕事です。
平井
はい。
大塚
タイコウでは選外になる傷モノも削って、その価値を高めて販売することをしています。「なんで値段を安くしてそのまま売らないの?」と言われたんですけど、値段を安くする意味はないと思っています。
平井
意味がない。
大塚
傷モノでも味は同じなのに値段を下げるのは、価値を下げることになるので。生産者さんがやってきたことを私たちが価値を下げてどうするんだと。傷モノであっても価値を高めることをみつけたいですよね。
平井
よくわかります。タイコウでは営業をやられているんですよね。
大塚
はい。メインは営業です。
平井
具体的にどういった仕事になるんですか?
大塚
なんでもやりますね。料理店さんの要望をうかがって、数あるかつお節を適切に割り振ることや、お客様からの相談もすべて受けます。販路開拓や商品説明も担当していますしアフターケアも。
平井
アフターケアというのは?
大塚
出汁の引き方のご相談や、かつお節に関することはもうなんでも。「削り機を買ってやってみたけどうまく削れない」や「研ぎ直しはどうすればいいの?」といった道具のご相談もありますね。
平井
無理難題が舞い込んだとき、テンションあがりますか?
大塚
うん、あがりますね。「またおもしろいのきたな」と。
平井
やっぱり!大塚さんはそうだと思いました。
大塚
なぜお客様がその発想につながったのかをわたしは知りたくなります。
平井
なぜそれを疑問と感じたのか? なぜそうしようと思ったのか? とかそういうことですか。
大塚
そうです。そういう視点でいると、お客様が何をわからないのかが見えてくるんですね。わたしたちにとっては当たり前だと思っていたことが、「当たり前じゃない」なんてことがたくさんあるんです。かつお節に関するわからないことを伝えるのがわたしたちの仕事なので、お客様のわからないことをたくさん読み解きたいです。
平井
SNSでかつお節に関することをたくさん発信されているのも、そういう理由があるんですか?
大塚
そうですね。日本人にとってかつお節は食材として当たり前すぎて、ほとんど話題にものぼらないんですよ。お米には新米のシーズンがある。お米をどうおいしく食べるか、品種はどうだ、というのがあるけど、かつお節にはそうした話題がない。身近すぎて「わけのわからないもの」になっちゃっているので、それをみなさんに近づけたいなと。
日本人の中でかつお節をつかうハードルがもっと下がるといいですね。ごはんにふりかけてみる。味噌汁に具として残っていてもいい。そんなふうに思ってもらえたら嬉しいです。
平井
日本人は出汁のハードルをあげていますよね。
大塚
そうですね。「そんなにハードル高くない!」ともっと言いたい。
平井
ははは。
大塚
お湯にかつお節をバッと入れたら、すぐに出汁が取れるんだよって。でも、かつお節を濾す手間が大変だと言うのもわかります。そういう方には、かつお節の粉をお湯の中に入れればいいよと。
平井
それが、タイコウさんで販売している「いつものだし粉」のコンセプトであると。
大塚
そうです。お子さんを抱えている友達とか、介護しながら家事をする人たちを周りでたくさん見てきて。働きながら育児しながら、じぶんの親も介護しながら料理をするときに、出汁を引くのはなかなかハードルが高いんですよね。でも天然のもので、それをお湯に入れるだけで済むのだったら、誰でもできるよね、そんな理由でつくったのが「いつものだし粉」です。
平井
助かる人、たくさんいると思います。
大塚
うちのかつお節をいつも使ってもらわなくてもいいんです。「ここの本枯節、おいしいんだけど800円もするのよね」「普段はつかえないな」というのはすごくわかります。「お正月のお雑煮だけはいいかつお節で出汁を引いてみよう」と、そんな気軽さでいいと思います。もちろん、たくさんつかっていただけると嬉しいですけども。
平井
はい。
大塚
たまにでも「出汁を引く」という行為がすごく大事なことだと思います。出汁を引くことから縁遠くなっている時代で、わざわざ出汁を引く価値があるなと感じてもらえる仕事をしたいですね。
あとがき
取材の後日、自分でもかつお節を削って出汁を引きたいなと思って、大塚さんに相談しながら削り器とかつお節を購入しました。もちろんタイコウさんから買わせてもらいました。相談中、大塚さんは「わからないことがあればいつでも言ってください」「削り機の種類はこれだけあります」「うちのではなく別の削り器でもいいと思います」なんて、使う人に寄り添ったアドバイスをしてくれました。かつお節を使って出汁を引くことのハードルを下げて、かつお節の魅力を多くの人に届けたい。大塚さん、そしてタイコウさんのその想いがある限り、かつお節の伝統は継がれていく気がしました。
(Shokuyokuマガジン編集長/平井巧)
<終わります>