MENU
Shokuyokuマガジン|ショクマガ (@Shokuyoku3) | Twitter
みんなの食卓論│人の数だけ食への考え方があるのだとしたら。お腹が空くような話から、普段はあまり聞けない仕事観や生き方まで。食に関わることを生業にしている人をお招きして「人と食」のインタビュー記録をお届けします。
#03
大塚麻衣子
かつお節タイコウの目利き見習い

動物看護士から料理人、そしてかつお節屋という異色の流れで業界に転職。現在、日本で最後の一人となったかつお節の目利き(稲葉泰三)の技を継承すべく奮闘中。沸騰させても絞っても大丈夫な、日本古来のかつお節の美味しさと魅力をnoteやTwitterなどで発信。出汁取り初心者からプロまで幅広く対応している、人気の出汁取り教室も再開。Youtubeの人気チャンネル『さばけるチャンネル』では、全5回のかつお節と昆布の出汁話の内、4回を監修するなど幅広く活動中。活動の源は、『美味しいものを食べたい!』という食いしん坊精神から!
かつお節タイコウのウェブサイトはこちら

目次
第1回 いい仕事をして
お金をもらう。
2022年3月7日(月)
第2回 かつお節のことを
見れているか。
2022年3月8日(火)
第3回 かつお節職人を
想う。
2022年3月9日(水)
第4回 かつお節づくりの
一手間。
2022年3月10日(木)
第5回 かつお節はそんなに
ハードル高くない!
2022年3月11日(金)

第4回
かつお節づくりの
一手間。

平井

かつお節を干している様子は拝見しましたが、製造はどちらでされているんですか。

大塚

あのグレーの機械で削っています。削ったものがシューターからどんどん落ちていきます。それを箱で受けて、袋詰めしていきます。かつお節を削ると粉末が出ますが、それも商品にしています。

平井

1日どのくらいの量を削りますか。

大塚

その日によりますかね。こちらは「だしこれ」という花かつおを袋詰めした商品になりますが、これが20袋入る箱を20箱とか30箱分削って、そのあとかつお節の粉を十何ケースか準備するほどの量です。問屋の中ではうちは生産量は少ない方です。

平井

それは手間隙かけているから、そこまで量を出せないということですか。

大塚

そうですね。いまお話した量が1日か2日で捌けていきます。次の日は荒節を削らずに本枯節だけ削るということもあります。

平井

かつお節の呼び方は、ちょっとややこしいです。

大塚

そうなんですよ。本枯節は、袋に「本枯節」と書いてあることがほとんどです。荒節を削ってできる花かつおとは全く質が違うものになります。

平井

荒節というのは?

大塚

かつお節をつくるとき、鰹を煮た後に2か月くらい薫製するんですが、そうしてできるのが荒節です。節にカビをつける前の状態です。カビをつけるのに3か月から6か月くらいかかります。ですので、カビつきのかつお節が生産者さんからうちに届くのは、つくりはじめてから半年、長いときは8か月くらいかかります。

平井

なるほど。かつお節づくりというのは、一年間の中でできることが決まっているんですか。

大塚

いいえ、決まっていないです。魚を仕入れる時期というのは決まっていますが、それを冷凍させていて取り崩しながらつくり続けていくんです。昔は魚を冷凍できなかったので、魚が獲れる時期だけの仕事でしたけど。

平井

冷凍させても魚質がいいから大丈夫なんですね。

大塚

それもありますが、冷凍させた方が、余計な脂が落ちやすく、節をつくる工程で身割れが発生しにくいんです。生のままつくると味のピークの期間が短いので、冷凍させてからつかうのが主流です。

平井

むしろ冷凍させたほうがいいと。

大塚

そうです。おいしい期間が長いことは、わたしたちにとっても、生産者さんにとってもやりやすいですね。何よりお客さんにとってもいいんですね。

冷凍したからといって、煮ているときや、骨を抜いたあとの薫製しているときも身割れは起こります。カビつけしているときにもだんだん水分が抜けていくので、その間にも身割れは起きますし、こうやってわたしたちが干していても身割れが起きることもあります。

平井

デリケートなものなんですね。

大塚

夏の暑いときは、地面からの熱で温度が60度近くになる中で、かつお節を干すわけです。そうすると節から一気に水分が抜けるわけですよ。その抜けが強すぎると身割れしちゃうので、そうならないように気をつけています。

平井

鰹の骨抜きをすると、骨のあった部分は空洞にならないんですか?

大塚

なります。

平井

え? でも節を見るとどこにも空洞は見当たらないんですが。

大塚

「修繕」と言って、骨のあった隙間に魚のすり身を入れていくんです。かつお節1本1本を手作業で修繕します。生の鰹の身と、茹でた鰹の身を擦り合わせて、ペーストにしたものを塗って隙間を埋めていくんです。

平井

へーー!それは細かい仕事ですね!

大塚

めちゃくちゃ細やかで、大変な作業なんです。私だったらいやですもん。「無理無理無理!私こういう作業できません!」て。

平井

ははははは!

大塚

生産者さんはすごい。ちなみに、骨を抜いたあとに節の形が悪い部分とか、ボロボロに潰れている部分は、ナイフをつかってトリミングします。形を整えるんです。見た目をきれいにするために皮目も取ります。そうしないと、その部分から身が剥がれてくることがあるので。

平井

本当、かつお節1本をつくるのにいろんな工程があるんですね。

大塚

宮下さんは労力を惜しまずにここまでしています。なんでそんなことをわざわざするの? そんな見た目が大事? とよく聞かれますが、節の細かいところを整えておかないと、結局つくっている最中に弾けたり割れたりして、味に影響がでちゃうんです。

平井

すべては、「おいしいかつお節」につながっているんですね。もうひとつ、一般的には荒節より本枯節の方が質がいいとされていると思いますが、逆に荒節の方がいい点もありますか。

大塚

それは好き好きですね。関東だと文化的に枯節を好みますけど、関西だと荒節を好まれたりもします。大阪だと昆布が主体なので、かつお節の味が強すぎると、野暮ったい味と思われてしまいます。大阪でお椀の蓋をあけて、「鰹のいい香り」と言ったら、ものすごく嫌な顔されることもあるみたいです。そういう方にとっては、鰹の味や香りは控えめがいいので、荒節の方を好むということもあります。

平井

なるほど。

大塚

(倉庫に積まれた段ボールを見ながら)これ去年の9月の節です。かなり脂の強い鰹ですね。ここ見てください。血合い(魚の腹と背中の間にある筋肉で赤黒い)の部分を取り除いてあるんです。

平井

凹んでいますね。この部分に血合いがあったわけですね。

大塚

はい。スーパーなどに「血合い抜きのかつお節」が置いてありますが、あれはこれを削ったものです。

平井

例えばスーパーで売っている花かつおは、削り節に色がついていますが、血合いを抜いていないんですか?

大塚

抜いていませんね。血合い抜きは一手間なので単価が上がるんですよ。

平井

一言で「かつお節」と言っても、いろんな種類がありますね。

<つづく>

«連載トップ»