ぬま田海苔4代目当主。前職はアパレルで実家の海苔屋へ転職。世界で唯一の有明海産初摘み海苔専門店として、日本の伝統食である海苔やうまみの魅力を合羽橋から世界の食卓へ発信中。
自身でnoteに執筆中。
ぬま田海苔のウェブサイトはこちら
ぬま田海苔4代目当主。前職はアパレルで実家の海苔屋へ転職。世界で唯一の有明海産初摘み海苔専門店として、日本の伝統食である海苔やうまみの魅力を合羽橋から世界の食卓へ発信中。
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第1回 | 海苔には 個性がある。 |
│2021年9月22日(水) |
第2回 | 「ぬま田海苔」 の役割。 |
│2021年9月23日(木) |
第3回 | 「海苔のおいしさ」 について。 |
│2021年9月24日(金) |
平井
沼田さんは前職でアパレル業をされていたんですよね。
沼田
はい。アパレル業を退職したのちに実家を継いで「ぬま田海苔」の4代目を名乗っています。
ただ始めは「ぬま田海苔」での仕事を長く続ける気はなかったんです。
平井
そうだったんですね。
沼田
まだやりたいことがあったので、またアパレル業に戻る気満々でした。
平井
それは意外でした。
ご実家のお店を継がれることは全く考えていなかったんですか?
沼田
全く考えていなかったですね。
でも親だけではお店を回すことはいつかできなくなるだろうな、とは思っていました。
自分は長男だし、どこかのタイミングでお店を手伝うことにはなるなと。
平井
よくわかります。
沼田
一方で、長い間アパレル業をやってきて、ちがう業界で働いてみたいとは考えていたんですね。
そんなときにちょうどいろんなタイミングが重なったこともあり、アパレル業を退職して実家の店を手伝うことになりました。
ただ、その時もこれを機会に実家の店をリブランディングして、それが終わったらアパレル業にまた戻るかーと。
始めはそのくらいの気持ちでしたね。
平井
それがなぜ、「ぬま田海苔」を継ぐことにしたんですか?
沼田
あるとき有明にある海苔の生産現場に入って、漁師さんたちの強い覚悟を目の当たりにしたんです。
漁師さんたちは大金をつぎ込んで、資格をとって、船を買って、船が壊れたら修理して漁を続けている。
平井
おお、大金をつぎ込んで。
沼田
デリケートで重労働な海苔の生産を続ける漁師さんたちのその覚悟とエネルギーはすごいんですよ!
そんなのを見ちゃうと、いつかアパレルに戻ろうと思っていた自分を「最低な野郎だ!」と思って 笑
こんな中途半端な気持ちで海苔屋をやっていたらだめだ!と。
平井
そこでメラメラと火がついて、海苔屋を続けることになったと。
アパレル業での経験が、海苔屋さんで活きていることってありますか?
沼田
ものすごく泥臭い話なんですが。
お店の外を歩いている人に積極的に声かけています。
例えば店さきで「ここ海苔屋さん?!」なんて不思議そうに店内を覗き込んでいる方がいたら、もうすぐに声かけにいっちゃいます。
平井
ははは。
沼田
まず海苔を食べてもらうことこそが、海苔屋には大事なことだと考えているんです。
ちょっとお洒落なお店だから、うちに入ってきてくださーい。って言ってもそんなんじゃだれも入ってきませんよ。じゃあどうするか。
お客さんになってもらうために積極的に行動を起こさないと。
これはもうアパレルの時に学んだ経験ですね。
平井
たしかに、服屋さんでもスタッフに声かけられます。
沼田
あのスタッフがお客さんに声をかけるのって、僕にとっては「困っている人を助けにいく」って感覚なんです。
「お客さんにモノを売りにいく」じゃないんです。
平井
もうすこし詳しく知りたいです。
沼田
たとえば服屋のジーンズ売り場の前に、お客さんがいたとしますよね。
その方に向けて「このジーンズがおすすめです」なんてことは言いません。
それだとジーンズを売りに行っていることになります。
平井
はい。ちょっと押し付けられている感じはします。
沼田
そこで「いま履かれているジーンズ、スキニーですね。
別のなにか気になっている形がありますか?」と尋ねてみる。
これって助けられた感、ありませんか?
平井
はー、なるほど。たしかに助けられた感じしますね。
このスタッフさんなら相談してもいいかも、と思えます。
沼田
それが、「困っている人を助けにいく」ということです。
もちろん、お客さんとの距離感は大事にしながらですが。
平井
服が海苔に変わっただけで、沼田さんの中ではいまやっていることは、そのときと変わっていない?
沼田
そういう意味では、なにも変わってないです。
海苔のことで悩まれたり、もっと海苔のことを知りたいという方を助けたいという思いで、海苔のおいしさを提案しています。
平井
沼田さんに相談すれば海苔をもっとたのしめるようになりそうですね。
「ぬま田海苔」さんは東京の合羽橋にお店がありますが、もともとはちがったそうですね。
合羽橋という食の道具の問屋街を選んだ理由はなんですか?
沼田
料理道具の街じゃないですか、合羽橋って。
今や料理道具はロフトや東急ハンズ、ネットでも簡単に買えます。
それでもわざわざ合羽橋に来る方というのは、道具にこだわりたいからだと思うんです。
そういう方たちには、こだわっている海苔も見てもらえるんじゃないかと。
平井
あーそういう見方をしていたんですね。
実際、合羽橋には道具も食材もいいものが並んでいます。
沼田
合羽橋にある店のスタッフさんは、プロダクトに対する情熱を持っています。
その店の商品のことを尋ねると、ものすごく喋るんです 笑
そんな人たちが、うちの海苔を薦めてくれるんです。
聞いた人も、そりゃあ興味をもってくれますよね。
だから自分も、お客さんに他店の商品を薦めるようにしています。
平井
ものづくりのプロである人たちが「ぬま田海苔」を薦めてくれるんですね。
沼田
そうです!それはそれはものすごい重圧です!笑
恥ずかしいことはできないですからね。
そして自分も海苔以外のことを、もっと詳しくなろうと。
たとえば「良い包丁探している」とお客さんとの会話で出てきたら、自分の思う良い包丁店を紹介したいと思うので。
平井
それはおもしろい話ですね。
沼田
提案といえば。ある時、イタリアの方がうちに海苔を買いに来ました。
この海苔は「チーズ」に合いますよ、と説明すると「チーズって、なんのチーズだ?」とさらに聞いてくるんです。
でも自分はそれ以上、うまく答えることができなかった。
チーズはチーズだ、としか思っていなかった。
あれはものすごく悔しかったですねぇ。
平井
はい。
沼田
これはいかん、ちょっと待てよ、となって。
すぐにいろんなチーズを買ってきて、海苔とのペアリングを試しました。
こうやって増やした海苔の知識を、お客さんに向けた「おいしさの提案」へと還元していくんです。
平井
沼田さんの役割がわかってきました。
沼田
海苔は店頭に並んだ時には、もう味は決まっているんです。
その海苔をお客さんに「おいしそう!」と思ってもらうこと。
そして実際に食べて「おいしい!」と思ってもらうこと。
それが、「ぬま田海苔」の果たす役割だと思ってやってきました。
平井
なるほど。
沼田
食べたいと思えるものがひとつでも増えることって、幸せなことじゃないですか。
「こうやって食べたらよりおいしいよ!」と提案することが、幸せを増やすことだと思っています。
ただ、これは「ぬま田海苔」だけに限ったことではありません。
ほかのお店の海苔でも良いので、とにかく海苔の魅力に触れてほしい。
食べたいと思える海苔をひとつでも増やしてほしいんです。
これは素直な気持ちです。
平井
海苔業界全体のこれからに繋がりそうな話ですね。
その考え方こそ、生産者と生活者の間にいる海苔屋さんとしての役割なんじゃないでしょうか。
沼田
そうだと思います。
海苔屋として、さらにその上で「ぬま田海苔」としてできることは、これからも考え続けていきたいですね。
<つづく>