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平井巧のきょうも平熱

Shokuyokuマガジン編集長の平井巧が書く平熱エッセイ。
食のことも、食以外のことも、いろいろ思ったことを書いていきます。

第6回
日常の当たり前

年も明けたことだし、今一度このエッセイのテーマを考えてみよう。

ショクマガ創刊のときに一番悩んだのは、並ぶコンテンツをどうするかということだ。少なくとも、じぶんで書くエッセイは絶対に入れたいと思っていた。そのエッセイも食に関することをただ綴っていくというのではなんだか面白くないなと思い、しばらく悩んでいた。

そんなショクマガ創刊に向けて考えることがたくさんあるタイミングで、新型コロナ感染症に罹った。体調がすこぶる悪いのに加えて、人に会えなくなるのには困ったが、罹ってしまったものはしようがない。おとなしく都内のホテルで療養することになった。

療養先のホテルで看護師さんに平熱を聞かれて、僕は答えることができなかった。普段から平熱を意識すること、そして「ちょっと熱っぽいな」などと数値で客観的に気づけることが、ものすごく大事なことなんだと反省した。

ホテル療養中は好きな食事を思い通りにすることができない。ホテルのベッドに寝っ転がりながら、日常の「食べる」という行為を思い返していた。朝起きてコーヒー煎れて、昼ごはんは馴染みの中華料理屋さんでチャーハンを注文して、夜ごはんは家族で食卓を囲む。そんなふうに食べられることの、なんと幸せなことよ。

じぶんの平熱を知っておくのと同じように、日常的にやっていることを意識しておくのは大切なことなのかもしれない。そう思った。

「これからは日常の当たり前を見逃さないようしよう」

そんな想いで、自戒の意味も込めて「平熱」という言葉をタイトルに入れて、内容も「(食以外のことも書くけど)食を介して日常を見直してみるエッセイ」とした。自戒と言っておきながら、このことをさっきまですっかり忘れていた。じぶんの書いたエッセイを振り返って思い出した。よかった。人間たまには振り返りをしたほうがいい。

よし、振り返りついでに、あらためてじぶんにとっての「当たり前」とは何かを並べてみよう。

・朝起きたら体操をする。
・朝、ホットコーヒーを1杯飲む。コーヒーは1日2杯まで。
・毎週2日間はジムに行く。行き過ぎもしない。
・マイベスト体重は、61kg〜62.5kg。
・ショクマガの「編集長きょうの一言」を毎日書く。
・お米を炊く。ぬか床をかき混ぜる。
・トイレで大きい方を毎日1回はする。
・毎日湯船に浸かる。シャワーだけはいやだ。
・月イチで髪を切りに行く。

まだまだありそうだけど、一旦ここまで。こう並べると、なんだかものすごくちゃんとした生活みたいだな。だけど実態はまったくそんなことなくて、早起きは苦手だし、洗濯物畳むのは下手くそだし、料理もよく失敗する。おならもよくするし、たまにくさい。基本はぐうたらだ。

ここに並べたことができなくなったり、できていても「あれ?いつもと何かちがうな?」と感じると、じぶんに何か異変が起きている証拠だ。仕事でキャパオーバーしていたり、風邪を引く前兆であったり、大抵身体のどこかを痛めていたりする。

僕が校長をしている食の学び舎「フードスコーレ」のnoteにも書いたけれど、​柳宗悦が唱えた「民藝」、つまり生活日用品の中に「用の美」を見出すという考え方から、生活用品に対してだけではなく、「暮らし方」そのものの中にも美を見出すことが大切なんだと拡大解釈してみる。「平熱」つまり「当たり前」を普段から意識することで、じぶんに何か異変が起きているというシグナルを受け取るだけでなく、暮らしの中の些細なことで贅沢を感じることもできる。これは何も特別なことじゃないし、誰にでもできることだ。この瞬間も。

といっても松の内が終わるくらいまでは年始特有のふわふわ感が残っているし、それはそれで愉しみながら、落ち着いてまた日常に戻っていくころに、いつものごはんを「おいしい、おいしい」と食べる。そうなってあらためて「今年も一年がんばろう」と思える気がする。今年もよろしくおねがいします。

2022年1月5日 平井巧

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