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平井巧のきょうも平熱

Shokuyokuマガジン編集長の平井巧が書く平熱エッセイ。
食のことも、食以外のことも、いろいろ思ったことを書いていきます。

第5回
ひとそれぞれの「食の話」

年末が好きだ。「年始」よりも断然「年末」だ。仕事でやり残していることがあろうが、年齢のせいでカラダのどこかが痛かろうが、口喧嘩したアイツと疎遠になろうが、とりあえずそれは今年あったことなんだから今年に置いていきましょうよ。良かったことだけ来年に持っていけばいいじゃない。そんなことを神サマが言ってくれているような年末が好きだ。

いろいろとあった2021年。忘れっぽいので、今年なにをしたのかスケジュール帳を開いて遡って見てみると、スタートしてから2年目となる食の学び舎「フードスコーレ」の活動が益々濃くなっていき、このエッセイの載る「Shokuyokuマガジン」を創刊し、オンラインでの講演を毎月やらせてもらい、昨年に引き続き都内の高校で通年の授業を持ち、企業や各地の自治体と一緒に食にまつわるお仕事をやらせてもらった。

5月に新型コロナ感染症に罹りダウンしたときは、一緒に仕事をする仲間の優しさと、「いかに平熱を自分ごとにするか」について療養先のホテルで考える毎日を過ごした。余談だが、そのころエーリッヒ・フロムの『愛するということ』を読んでいて、愛について考えすぎてカラダとココロのバランスが崩れてしまった。結局愛についてはわからないままだ(わかる日なんて来るのか)。

振り返ってみると、本当にたくさんの人と「食の話」をした一年だった。ショクマガを編集していると、エッセイを書いてくれている方たちや、インタビュー相手とたくさんの会話を重ねる。会話の中で「食」というテーマが放り込まれると、それまで抽象的だった内容が途端に具体的になったり、人ごとだったエピソードが急に自分ごとになったりする。「意外と庶民的な料理が好きなんだな」とか「え!そんな食べ方するの?!」なんてことがわかると、その人のB面を見た気になって勝手に距離を縮められる。

それは「話す」だけじゃなく「読む」ことでも感じられる。たとえばショクマガで連載中の「山角や」の水口さんが書いている「おむすびと出会い」。vol.2の ”文化とソウルフード” に出てくる「山利」さんのしらすを食べたことがない人でも、しらす漁やしらすづくりの現場を知らない人でも、読み終わると言葉にできない高揚感が残る。実際に自分が体験したわけじゃないのに、「食の話」だと水口さんの感じたことを追体験している気分になるから不思議だ。

人それぞれに「食の話」があることを、あらためて知った一年だった。よく考えたらそりゃそうだ。人は食べないと生きていけない。食べる時間が毎日あれば、そこにはいろんなストーリーが生まれ、自分の生きる哲学に繋がる発見もあるだろう。こういう話はもっとたくさんの人に届くといいなと思う。ショクマガを読んだみなさんに何か感じてもらえるように、来年も頑張ります!

2021年12月30日 平井巧

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