Shokuyokuマガジン編集長の平井巧が書く平熱エッセイ。
食のことも、食以外のことも、いろいろ思ったことを書いていきます。
僕はお腹が壊滅的に弱い。幼いころから40代になった今でも、お腹ヨワヨワなのは変わらない。どのくらい弱いかというと、アイスクリームやアイスドリンクを口にすると数時間後にはお腹が痛くなる。外で食べるアイスは命がけだし、夏でもホットコーヒーを飲む。「大人ならホットコーヒーでしょ」なんて周りには言っているけど、アイスコーヒーを飲むと一発でお腹をやられるだけの話だ。お酒を飲んでも次の日は必ずお腹を下す。お酒の量は関係なく少量でも飲むとお腹を下す。
汚い話で申し訳ないけど、小学生のとき下校途中で大きい方を漏らしたことがある。当時の男子は学校のトイレでは恥ずかしくて大きい方の用を足せない。下校と同時に学校からダッシュして帰ったけど間に合わなかった。
このころ両親はラーメン屋を営んでいた。お店が1階、住居が2階にあるタイプの家で、帰宅したら必ずお店の中を通らないとならない。漏らしたことを親に知られたら怒るにちがいない。お客さんにバレても大変だ。食事中にはありえない臭いを大切なお客さんにかがせてはならない。小学生ながらにラーメン屋の経営についても真剣に考えながら、お店の入り口の引き戸を開け、とぼけた顔で「ただいまぁ」と言い、常連のお客さんには「こんにちはぁ」と軽く頭を下げながらか、(たぶん)誰にもバレずに店内を歩ききった。なんとか家には入れたけど、結局その後、履いていたズボンと下着を洗わなければならず母にバレて怒られた。
食べ過ぎで痛くなるのは当然だけど、腹七分くらいに抑えていてもヤバい。初めていっしょに食事をする人には僕が少食に見えるらしい。この間もある年下の男性とはじめて夜に食事に行ったのだけれど
「え、それしか食べないんですか?」
「うん」
「あとでお腹空きませんか?」
「だいじょうぶ」
「あまりおいしくないですか」
「いや、そんなことないよ」
んー。相手には申し訳ないけど、このやり取りが面倒くさい。付き合いが浅い人にいきなり腹ヨワなことを説明するのもなんだし、何よりたぶんわかってもらえない。僕にとって毎回の食事が油断を許してくれないいわば戦場なのだ。腹ヨワ歴40年の戦士として、念のため腹六分くらいに抑えているのだ。なんならもう保険かけまくって腹五分なこともある。料理を無心に口にするなんて大雑把な食事をすることができないのだ。僕はデリケートなのだ。
むずかしいのは、誰かに連れて行ってもらうお店での食事だ。ここであまりに食べなさすぎだと相手に失礼になる。このときは、もう覚悟を決めて腹八分くらいまでいっちゃう。後は野となれ山となれ。一世一代のギャンブルタイムに突入する。
今こうしてお腹痛いことを考えながらエッセイを書いているだけでも、お腹が痛くなる。生まれてこの方ずっとこうだから、お腹痛いときとそうでないとき、どちらがデフォルトの自分なのかは、もうわからなくなっている。
そんな僕には絶対的な味方がいる。「正露丸」さんだ。「正露丸」さんとの出会いは忘れもしない小学1年生のとき。いつものように朝お腹が痛くなる僕に母が「正露丸」さんを紹介してくれた。あの独特な匂いと、小さいながらも黒々となにか強者感のオーラを放つフォルムに僕はビビりながら、目を瞑って水とともに一気に飲み込んだ。そのあと飲んだことなんか忘れて過ごしていたけれど、「あれ?そういえば今日お腹痛くなかったな」と寝る前に思った。それ以来、「正露丸」さんへの信頼感は半端ない。最近は漢字からカタカナに改名され、まっ白で甘い糖衣を着飾りおしゃれにされて、ますますご活躍の様子。これからもよろしくお願いします。
いちど大きい用を足すと、すぐに次もしたくなるから用を足すタイミングはとても大事なこととか、夏こそハラマキが必要なんだということ、トイレでの過ごし方についてなど、腹痛に関する話はもっとしたいところではあるけど綺麗な話でもないので、今回はこの辺にしておこうと思う。
お腹が弱い人代表として最後に。こういう人が世の中にいて、日々知らないところで己と戦っているんだということを知っておいても何にも得にならないので、この話は忘れてもらって結構です。
2021年11月24日 平井巧