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平井巧のきょうも平熱

Shokuyokuマガジン編集長の平井巧が書く平熱エッセイ。
食のことも、食以外のことも、いろいろ思ったことを書いていきます。

第3回
わかりやすい熱っぽさ

怒鳴ったり、はしゃいでいるところを見たことがない。

幼いころから、周りにいる大人によく言われてきたことだ。無感情、無反応、冷徹な人だと言われているようで、それなりに傷ついていた。

小学生のときの話だ。なぜかクラスの班長や委員長を任されることが多かった。母親からは、「あんたにできるのかね」と言わんばかりに鼻で笑われたものだ。感情表現の下手な息子にリーダーはできっこないと心配だったのかもしれない。

大人になって会社の同僚に言われることもあった。言われすぎて、もう気にしなくなってきていたが、外回りで乗ったタクシーの降り際に、「お客さんクールだね」と褒め言葉ではないニュアンスで年配の運転手に言われたときは、さすがに驚いた。初対面の人間に出会って10分そこらで、そういう内面的なことを言う人の強心臓は羨ましい。そこまで言われる筋合いはないぞと、この時ばかりはちょっと感情的になった。

いま自分で興した会社の代表をやっている。リーダーとして熱っぽいことを周りに語るべきなのかもしれないけれど、揚げたてアツアツの言葉はあまり思いつかない質だ。

そんな僕でも態度の悪い店員にムカついて「あぁん!?」と凄んだり、大好物のプリンを食べている時には、「いやっほう!」と片手を突き上げて飛び跳ねている。でもこれは頭の中での話。

喜怒哀楽を表に出すことが苦手だ。でも人はわかりやすい熱っぽさを求めるものだ。周りから感情が表に出ないことを指摘され傷つきながらも「そんなこと知るか!」と30代までは思っていたけど、42歳になろうとするいま、それもいけないだろうということで、少し心境に変化が起きはじめている。自然に熱っぽさを出していけたらいいな。

でもまた母親に「あんたにできるのかね」と言われそうだ。

2021年11月9日 平井巧

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