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ユトレヒトから、おはこんばんちは!

4年間務めていた会社を辞めて日本を飛び出してオランダに渡り、
昨年からユトレヒト大学院で環境学を学ぶ荒井りささん。
りささん、新天地での暮らしに戸惑いながらも、
日本にいると気づけなかったことにも触れてどうやら毎日が楽しそう。
そこで、ユトレヒト暮らしのちょっとおかしなことを、
食にまつわることを中心に、りささんにお届けしてもらうことにしました。
月に一度更新していきます。

第5回
わたしがユトレヒトで
学んできたこと

おはこんばんちは!りさです。

オランダでは、4月27日は”koningsdag”(国王誕生日)”。街には人々が繰り出し、オランダのナショナルカラーのオレンジ色に染まります。この2年はコロナ対策で中止となっていましたが、今年はついに解禁。街の中心はフリーマーケットと飲み歩く人たちで溢れかえっていました。この日は特別、羽目を外してオッケーな日。飲んで食べて、陽気なお祭り騒ぎを楽しみました。

koningsdag当日のユトレヒトの街

* * *

早いもので、ユトレヒトに来てから1年と8か月が経ちました。はじめの頃は、新天地での暮らしと大学の勉強でいっぱいいっぱい。「今となってはいい思い出…」と語れるほど今も余裕があるわけではないですが、少しずつ慣れてきたので、これまでを振り返ってユトレヒトで学んだことをみなさんに共有したいと思います。

1. 「うまくいっている!」なんて思っているうちは、まだまだ

今から3年ほど前、日本にいたころのこと。仕事も私生活もなんだか怖いくらいうまくいっているなあ、と思うのと同時に、漠然とした不安も抱えていました。「わたし、このままでいいのかな」。特に、サステナビリティの知識と英語のスキルに自信がもてないことにモヤモヤしていました。

そんな満たされない気持ちを乗り越えるために、「えいや」と決めたオランダ留学。そこで、厳しい現実と向き合うこととなります。英語が思うように話せない。授業のレベルについていけない。授業中に積極的に発言できなくて、ただ時間をやり過ごす。「井の中の蛙、大海を知らず」とは、まさにこのこと。小さな井戸から投げ出されて、身動きさえとれずに縮こまっていました。

「自分の意思でここまで来たのに、何をやってるんだ!」。

「いや、新しい暮らしや勉強に順応するのは大変だよ」。

理想派と現実派との自分が、いつも頭のなかで戦うんです。

でも、そんな葛藤と向き合いながら、学ぶこともたくさんありました。大学では、絶対的な正義だと思っていた「持続的な開発」という概念が、実はたくさんの矛盾を抱えたものだと知りました。それに、2年近く英語漬けの環境にいて、言語能力もある程度ものになりました。まだまだ苦しみながらも、昔のわたしには到達できないところまで歩んできたんだな、と今は思えてます。

春の名所、Keukenhofのお花畑

2. ストレスとうまくつきあおう

ユトレヒトに来てから、どう取り組んでいいかわからない課題に圧倒されたり、自分の将来を描けなくて落ち込んだり。そんな時にとっても救われたのが、大学から送られてくるメンタルヘルスに関するメールや友だちからのサポートでした。

精神的に参ってしまうのは、誰にでもあること。周りに自分のきもちをシェアして、ストレス発散しよう!’

こんなメッセージをもらって、悩んでいるのは自分だけじゃないんだ、こうした気持ちは隠さないんでいいんだと気づきました。

あと、わたしの周りの友だちって、つらい時には「助けて」とサインを出すのが上手いんです。自分の弱みをさらけ出すって、じつは勇気のいることです。自分もこういうふうにもっとオープンになっていいんですね。

「働かない日」をしっかりつくるのは、オランダの人たちにとって当たり前。正直、最初はクラスメイトや先生の休暇を死守する姿勢にちょっぴり驚きました。でもきちんと休むからこそ、元気を得て精力的になれるんですね。今では疲れたなと感じたら、無理をしないで休むようにしています。

3. 料理をすること、食べることは心の癒し

日本にいたころは、忙しさにかまけて外食ばかりでしたが、ここではコロナの規制とお財布事情がそれを許しません。必要に迫られてはじめた自炊だったけれど、いつのまにか料理をすることが好きになっていきました。

英語ができない、勉強についていけない―。そんな思うに任せない生活とちがって、きちんとステップを踏めば、料理はたいてい思い通りつくれます。頭をからっぽにして、野菜をとんとんと刻み、ぐつぐつと沸く鍋と向き合う。むずかしいこと、嫌なことは忘れて、今この瞬間に集中する。

料理の時間は、わたしにとって癒しの時間でした。さらに、できあがったごはんも食べられるボーナスつき。誰かと一緒に食べて「おいしいね」と言ってくれたら、それだけで「きょうはいい日だった!」と言えちゃうくらい嬉しい。

iPhoneのカメラロールには、料理+友人たちとの写真がたくさん

わたしのオランダ生活もまだ始まったばかり。ユトレヒト大学を卒業後はこっちで働きたいと思っているので、最近になって真剣にオランダ語を学び始めたり、アルバイトを始めたりしています。新たな壁にぶつかって不安になることも、まだまだたくさんあります。きっと、今もこれからも、「人生うまくいっている」と言い切れるような日は訪れないんだろうな。でも、それでいいんです。料理を通じて学んだ「今、ここ」に集中して、一歩ずつ歩いていく。それが目的地への近道なんじゃないかな、と思います。

* * *

さて、5回にわたってお届けしてきたこの連載ですが、今回でおしまいです。でも、わたしのユトレヒトでの冒険はまだ終わっていません。これからどんなことを学べるかな?どんな人と知り合えるかな?そんなわくわくを胸に、この素敵な街で暮らしていきたいと思います。連載を通じて、みなさんに少しでもユトレヒトやオランダの魅力をお伝えできたならとても嬉しいです。ではでは、また地球のどこかでお会いしましょう!

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