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ユトレヒトから、おはこんばんちは!

4年間務めていた会社を辞めて日本を飛び出してオランダに渡り、
昨年からユトレヒト大学院で環境学を学ぶ荒井りささん。
りささん、新天地での暮らしに戸惑いながらも、
日本にいると気づけなかったことにも触れてどうやら毎日が楽しそう。
そこで、ユトレヒト暮らしのちょっとおかしなことを、
食にまつわることを中心に、りささんにお届けしてもらうことにしました。
月に一度更新していきます。

第4回
オランダの
ベジタリアン・ビーガン事情

おはこんばんちは!りさです。

だんだん暖かくなってきましたね。みなさん、お花見はしましたか? 実はオランダでも桜の木は人気で、わたしはこちらでもお花見をたのしんでいます。暖かい陽気と街並みを彩る花々。暗く寒い冬を乗り越えたからこそ、春はとてもわくわくする季節です。

アムステルダム近くの桜の名所、Kersenbloesemparkにて

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今回は、オランダのベジタリアン・ビーガン事情について書きたいと思います。ベジタリアンというのは、食事にお肉や魚を含まない食事や食べ方です。これに加えて、牛乳、卵やはちみつなど動物由来のものを一切含まない食事をとるのがビーガンです。食べものだけではなく、本革や毛皮の服などを使わなかったりと、日常生活においてもビーガンの考え方を実践する人たちもいます。

こうした考え方の根底には、動物の福祉や環境への配慮などがあります。現代では、工業的に動物性の食品をつくりだすのに、避けて通れないさまざまな問題があります。たとえば、動物に苦痛を与えることへの倫理性や、畜産や養殖を通じた温室効果ガスや汚染物質の排出など。

牛や羊などの「げっぷ」が温室効果ガスのメタンガスを発生させる話は、どこかで聞いたことがあるかもしれません。初めて聞いたとき正直、「そんな大したことじゃないだろう」と思ったのですが、けっこう大したことなのです。世界全体の家畜に由来する温室効果ガスは、すべての乗り物から排出される温室効果ガスに匹敵するともいいます。(出典:グリーンピース・ジャパン「牛のゲップだけじゃない。肉の大量消費が引き起こす10の環境問題まとめ」

こうした問題にたいして、「動物性のものを摂らない選択」を通じてアプローチしようとするのが、ベジタリアン・ビーガンの考え方、と言えるかもしれません(中には健康や信仰の理由で動物性の食品を避ける人もいます)。わたしは、2年ほど前からお肉を食べなくなりました。工業的な畜産による動物の扱いや、環境負荷といった社会問題を知ったからというのもありますが、単純に脂っこいものを胃が受けつけなくなったから(まだ若いのに…)。

動物とのふれあいを通じてベジタリアンになる子どもも多いそう

こんな風に説明すると、なんだか大仰なことのように聞こえるかもしれません。菜食=「動物性食品は一切摂ってはいけない」とか、ビーガンは菜食主義の考えを強制してくるんじゃないかとか。でも実際は、多くの人が他人の考え方に寛容に、柔軟に、たのしみながらやっている印象です。わたしもサステナビリティについて勉強している身として、できるだけビーガンを実践したいなと思う一方で、時折、魚介類や卵などはおいしく食べています。ゆるゆるです。

厳格な人もゆるゆるな人も、オランダでは、ベジタリアンやビーガンを実践する人が楽に暮らせているなあ~と思うことがたくさん。これから詳しくお話していきますね。

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さて、街中のふつうのスーパーにやってきました。野菜、お肉、チーズ、パンといった定番のコーナーはもちろん、ベジタリアン・ビーガンのコーナーがとっても充実しているのです。写っているのは、大豆などの植物性たんぱく質が原料の「代替肉」の棚。本物のチキンやソーセージに見た目も味も似ている商品が、お手頃な価格で並んでいます。たとえば、ふたつ入りのハンバーグが230円くらいだったり。代替肉の他にも、植物由来のツナやチーズも充実しています。

スーパーの代替肉コーナー

なんだか、パッケージを見ているとわくわくしてきませんか? オランダでは、こうした「動物性食品以外のオプション」がポップでたのしいものとして流通しています。

オランダの友だちと話していると、「肉を食べるのは環境によくないから」とか、「ビーガンを貫くのはクール」といった意見がさらっと出てきて驚きます。肉食と環境問題の関係性や、菜食主義を肯定的にとらえることは、日本ではなかなか浸透していない考え方だと思います。オランダでは、スーパーで商品が充実しているだけでなく、人々の考え方にもベジタリアニズム・ビーガニズムが浸透しているんだなと感じます。

数字を見てみると、オランダ全体のベジタリアンまたはビーガンの人口は約4%と推計されています。さらに、40歳以下の人は約7%がベジタリアンなのだとか。(出典:vegetariërsbond “Forse groei vegetariërs en veganisten”)

14人に約ひとりがベジタリアンって、けっこう多いと思いませんか? ちなみに、わたしの周りはサステナビリティを勉強している若い友だちが多く、ほぼみんながお肉や魚の消費量を減らしていて、半分くらいがベジタリアンです。

若い世代が菜食中心になっているという傾向は事実のようで、20年の調査によると、オランダではミレニアル世代以下(18~29歳)は肉食を減らしている人が半分以上にのぼるそうです。(出典:AMP「30年後、オランダ人の過半数はベジタリアンに? 「若者の肉離れ」が起こる理由」)

魚や肉が入っている料理が好きな人も、スーパーやレストランで手軽に代替オプションが手に入るので、動物性食品を抜くハードルは低いのだと思います。ベジタリアン=「生野菜ばっかり食べなきゃいけない」なんてことはなくて、おいしいもの、好きなものを諦める必要はないのです。

レストランにて、ビーガンチーズが乗ったオープンサンド

みんながみんな完全なベジタリアンやビーガンを実践しているわけでなくて、動物性食品がもたらす倫理的・環境問題を理解しつつ、できる範囲でたのしみながらやっているということは、大事なポイント。「今日はお肉なしで、ビーガンハンバーガーをつくってみよう」とか、「このベジタリアンメニュー、おいしそうだから試してみよう」といった感じで。

そう、ベジタリアン・ビーガンは排外的な「主義」ではなくて、たくさんある選択のひとつなのです。オランダで暮らしていて思うのは、肉食・菜食の食文化しかり、信条や習慣に多様性があって、それを人々が認め合っているということ。ベジタリアンだからといって外食をたのしめないなんてことはないし、ビーガンだからといって他人に菜食の考え方を強制するなんてこともありません。そんな環境なので、いろんな人が暮らしやすいのだと思います。

わたしが(ゆる)ベジタリアンになって知ったのは、動物性食品を使わないで料理をするというのは、とってもクリエイティブでたのしいということです。お肉の代わりに豆腐や豆、代替肉をつかえば、誰もが満足する一皿をつくれちゃいます。わたしがよく参考にしているのは、お洒落でおいしいビーガンレシピを紹介しているサイトです。おすすめは、’Pick Up Limes’, ‘Plant Based School’。ぜひ覗いてみてくださいね。

図書館の一角にはビーガン・ベジタリアンレシピ本のコーナーが

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この連載は、次回で最後になります。来月は、わたしがユトレヒトで学んできたことについて書きたいと思います。おたのしみに!

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