4年間務めていた会社を辞めて日本を飛び出してオランダに渡り、
昨年からユトレヒト大学院で環境学を学ぶ荒井りささん。
りささん、新天地での暮らしに戸惑いながらも、
日本にいると気づけなかったことにも触れてどうやら毎日が楽しそう。
そこで、ユトレヒト暮らしのちょっとおかしなことを、
食にまつわることを中心に、りささんにお届けしてもらうことにしました。
月に一度更新していきます。
おはこんばんちは! りさです。
オランダは暗くて寒い冬を乗り越えて、少しずつ暖かくなってきました。みなさんいかがお過ごしですか?今回はオランダの人の価値観や考え方について、一年半ユトレヒトに住んでみて感じたことをお話したいと思います。
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わたしたちは、各国の人たちをステレオタイプを通じて理解しています。世界からみた日本人の典型でよく聞くのは、「まじめで礼儀正しい人たち」というもの。当然、人それぞれ個性があるので一概には言えないにしても、全体の印象としてはあながち外れていないのでは?
こうしたステレオタイプは、オランダ人に対してもあります。よく言われるのは、倹約家で、合理的で、リベラルな考え方を大事にするということ。ほんとのところは、どうなんでしょう? 私なりに考えてみました。
まず、倹約家という評判について。オランダでは、“Go Dutch (割り勘で)”という言葉があるように、「自分の分はきっちり分けて払う」のが基本です。ある友だちは、ホームパーティのお酒代として0.7€(100円くらい)を後日請求されたといって笑っていました。オランダ人は、ケチというか、ちゃんと精算して平等にしたい気持ちが強いのかも。
オランダは豊かな国で、特にユトレヒトはちょっとイケてる街なので、身なりはみんなちゃんとしています。だけど、流行に乗って新しいものやファッションにたくさんお金を使ったりもしていなさそう。いいものを長く使ったり、セカンドハンドで物を買ったりして、無駄にお金を使わない人たちが多い気がします。
倹約や質素が美徳とされる背景には、プロテスタントの倫理観が強く影響しているそうです。華美な見た目より中身や機能面が大事だという考え方は、オランダ人の合理的な性格に結びついているのかもしれません。
これは食文化にも現れていて、食事にお金や時間をかけないなと感じます。ランチは食パンにチーズをはさんだサンドイッチだけ、というのは大学でよく見る光景です。オランダの友人いわく、食事という行為を楽しむというより、「お腹を満たすために何か食べる」という考え方なのだそう。
オランダでは大麻や売春が合法なこともあり、リベラルな国であると称されています。わたしの実感としても、「異質」なものに対して寛容な人たちが多いと思います。町を歩いていても、ユトレヒトにはあまりいない日本人のわたしに、誰も気を留めていない感じです。変に緊張しないでよいので、気が楽です。多様性に関する教育がきちんとなされていて、それが自然と息づいているんだろうな。
オランダ人は倹約家で、合理的で、リベラルだという典型的な評判。どれも本当だなと思うところがある一方で、やっぱり一概には言えないところもたくさんあります。人によって、考え方は全然違いますからね。同じオランダの人でも、グルメな人もいれば、保守的な人もいたり。やっぱり、人それぞれです。
わたしがここに住んで感じるのは、オランダの人たちは休暇の時間を大事にするということです。休んでいる間は、家族や大切な人たちとゆっくりと過ごすのが定番です。大学で一緒にグループワークをしたオランダ人の子たちは、課題の提出期日が近づいても、土日の休日は死守して平日にタスクを詰め込んでいました。「週末は休む!だから今のうちに頑張ってやっちゃおう!」。そんな彼女たちから、オン・オフの切り替えの大切さを学びました。
さて、家族との時間を大切にするオランダの人たちは、どんなものを家庭で食べているのでしょう?
オランダ料理って、あまり日本では知られていませんよね。オランダの伝統的な料理といえば、豆やじゃがいも、ソーセージなどを煮込んだとってもシンプルなもの。例えば「エルテンスープ」は、えんどう豆をメインに野菜とソーセージなどを一緒にぐつぐつ煮込んだものです。これが、素朴だけど濃厚でとってもおいしいのです。
でも、共働き世帯が多く忙しい現代では、時間をかけてスープを作ることは少なくなっているそう。そう考えると、エルテンスープは、日本でいう「煮物」みたいなものかも。煮込むのに時間がかかるから、忙しい生活のなかで、なかなか作ろうとは思わない。だけど一口食べると、ほっこりと体も心も温かくなる。そんな存在。
オランダでは、「暖かい食事は一日一度」という習慣があるといいます。夜にスープを食べるとしたら、朝と昼はシリアルやサンドイッチといった「冷たい食事」でさっと済ませるということ。時間をかけて料理をするより、仕事をテキパキこなしたり、家族団欒の時間にあてた方がいいという、またまた合理的な考え方。
これに加えて食料品の宅配やレストランのデリバリーが大人気なところを見ると、オランダの人は料理に時間をかけるつもりはないのかも。食にあまりこだわりがないのは一見さみしいけど、その背景には、家族や大事な人との時間を大事にする文化が息づいているんだなあ。
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来月は、オランダのベジタリアン・ビーガン事情について書きたいと思います。まだまだ寒いものの、こちらではクロッカスなどの球根植物が地面からひょっこり顔を出し始めました。暖かくなったころ、またお会いしましょう!