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みんなの食卓論│人の数だけ食への考え方があるのだとしたら。お腹が空くような話から、普段はあまり聞けない仕事観や生き方まで。食に関わることを生業にしている人をお招きして「人と食」のインタビュー記録をお届けします。
#04
藤川真至
CHEESSE STAND CEO / Cheese Craftsman

1981年岐阜県生。大阪外国語大学(現大阪大学)イタリア語学科卒業。バックパッカー中にナポリピッツァに出会い現地にて修行。同時に出来たてのチーズの美味しさに目覚める。北イタリアのチーズ工房にて住み込みでチーズ作りの基礎を学ぶ。卒業論文は「イタリアの水牛モッツァレラ」。2012年6月「街に出来たてのチーズ」をコンセプトに「SHIBUYA CHEESE STAND」オープン。国内外のコンクールにおいて様々な賞を受賞。チーズをより身近にするためにセミナーの開催や絵本、オウンドメディアを手がける。2016年5月、チーズ業界への功績が認められ「ギルド」叙任。
CHEESE STANDのウェブサイトはこちら

目次

第4回
じぶんがつくりたい
チーズ。

平井

CHEESE STAND」の関連店舗が増えていますね。

藤川

そうですね。ただうれしい反面、むずかしさもありますね。スタッフの交流が少なくなったり、文化が壊れるというのは、「CHEESE STAND」をオープンする前に働いた飲食業界で経験してきました。

平井

具体的にどういうことですか。

藤川

店舗が増えれば増えるほど、店舗に人がばらけて交流がなくなったり。想いやノウハウなどいままで大切にしてきたものが薄まったり。だから、店舗を増やすにしてもそこは慎重に。スタッフひとりひとりが大切にしているものは、会社側も大切にしていく。そんな会社にしたいなとは思いますね。

平井

チーズづくりは人による差が出ますか?

藤川

出来あがりの味には差が出やすいですね。丁寧につくる人のチーズは無難なものになりやすい。「こういうチーズをつくりたい!」がまずあって、それを勘を交えながらつくる人のチーズは、変態的でおもしろいチーズになることが多いです(笑)

平井

おもしろい話ですね。 藤川さんがつくりたいチーズというのもあるわけですよね。

藤川

そうですね。たとえば、できたてはあまり酸味がなくて弾力はあるチーズとか。そこに向かっていろいろと調整していきます。

by CHEESE STAND

平井

つかう人に合わせたチーズづくりというのもされるんですか?

藤川

それはしていませんね。じぶんがおいしいと思うチーズをつくっています。

平井

要望に合わせることは、できなくはないんですか?

藤川

多少の調整はできますよ。水分量を多くしてほしいとか。ちょっと固いチーズをつくってほしいとか。だけど、そうした要望に合わせた調整はしていないですね。チーズをひとつひとつ変えることはできなくて。その日につくったチーズ全部がそれになってしまう。だから、じぶんがおいしいと思うチーズをつくるということですね。

平井

なるほど。「CHEESE STAND」に注文される方たちは、藤川さんを信頼しているんでしょうね。

by CHEESE STAND

藤川

最初のころはチーズの出来にブレ幅がかなりあったんですけど、いまはブレも狭くなりました。でもやっぱり少しはブレます。そうすると、つぎの日にちょっと改善する。その繰り返しです。チーズとちがって1年に1回しかつくれないワインなどは、本当にすごい苦労だろうなと思います。

平井

チーズも毎日改善するむずかしさがあるんだろうなと感じました。熟成チーズはどうですか? トライアルが短くないから、大変そうですよね。

藤川

熟成チーズは3か月置いたり。やろうと思えばもっと置くこともできます。これはこれで大変ですね。

平井

料理人には、何かを研究することが好きな人が多いイメージがあります。藤川さんにもそうした一面はあるんでしょうか。

藤川

研究するのはきらいじゃないです。職人って掘り下げていく作業だと思っていて。これまでのものをよりよくすることも、ゼロから新しいものをつくることも、どちらの研究にもちがうたのしさがありますよね。

平井

ちがうたのしさ。

藤川

チーズ職人の中にもいろんなタイプがいて、じぶんのおいしいものを突き詰めていく人もいれば、新しいチーズをつくる人もいたり。ぼくはチーズを軸にして、チーズケーキや、なんなら絵本のような展開もそうなんですけど、いろんな新しいものをつくりたい。新しい価値を生み出したいんです。

平井

藤川さんは緻密な仮説を立ててチーズを研究する一面もあれば、バックパッカーの経験もそうですけど、ある意味「えいやー!」と勢いをもって行動する一面もあるんでしょうか。

藤川

司馬遼太郎の本が大学生のころから好きで。結構読みました。そこで描かれる幕末に生きる人の話は男子の本懐だなと。「事を成す」っていう気持ちがじぶんの根底にあるのかもしれません。

平井

幕末で活躍した好きな人物はいますか?

藤川

『峠』の河井継之助ですね。確固たる芯を持っていて。時勢に合っていないとわかっているんだけど、義や道理を通したり。あと運命を受け入れているところとか。じぶんもじぶんのことを「こだわりの強い人間」だと思っています。

平井

このさき何か挑戦したいことはありますか?

藤川

ずっと熟成チーズをつくりたくて、昨年「CHEESE STAND LAB」をオープンして、ようやくスタートラインにたてた気持ちで。正直そのさきは考えたことがないんですけど、チーズをつくるときにできる「ホエー」を活用できないかなとは考えています。

平井

普段はどうされているんですか?

藤川

捨ててしまうこともありますが、高円寺にある銭湯「小杉湯」さんでは、うちのホエーをつかった「ホエーの湯」を月に数回やってくれていて、チーズもいっしょに販売しています。

平井

小杉湯! ぼくは高円寺出身なので、今度行ってみます。

藤川

ぜひぜひ。あと、フレッシュチーズとちがって、熟成チーズは遊べるんです。フレッシュチーズとモッツァレラは水分が多いので、時間が経つと味が薄まる。だから加工など何かするのにはあまり向いていない。一方で、ワインの粕に漬け込んでいるチーズが海外にはあるんですが、「CHEESE STAND」でもやってみたいですね。トリュフを入れたチーズづくりにも挑戦したい。熟成チーズはバリエーションが増やせることが魅力だから、そんな遊びにも挑戦していくつもりです。

平井

このさき、たのしみにしています。ありがとうございました。

<終わります>

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