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週刊・◯◯公論
今回の
テーマ
有機農業

食に関わる方をゲストに招き、
毎回異なるテーマを掲げ
佐藤一成とゲストが欲望のままに
公論を進めていく番組です。

ゲストは、東京都板橋区でThe Hasune Farmを経営されている冨永さんです。
今回、このテーマに対して冨永さんをゲストに選んだ理由は「目的と手段を明確に考える人」だから。
公論しながら冨永さんが今考えている有機農業について徹底解剖したいと思います。

佐藤一成
地域で起きている社会課題をその地域に必要な解決方法を模索し提案・実施することに携わる。第1次産業と食に関わる課題に「6次化・物流・新規就農・体験」などで解決できるよう取り組んでいる。最近の興味は食の物流。株式会社良品計画に所属。
冨永悠

2019年、都心から農地・自然を守りたい一心で大手企業を脱サラし農家として独立。板橋区の蓮根と練馬や朝霞に、あわせて約1haの農地で無農薬・無化学肥料で栽培している。 「都心の里山を感じられるような場所」をコンセプトに、PLANT(レストラン)、養蜂、廃棄ゼロコンポスト、ハスネサポーターズ、農福連携、体験農園など新しいプロジェクトに日々奮闘中。

佐藤

突然ですが、今年、鴨川のお米1俵の買い取り価格は10,000円以下(コシヒカリ)なんですけど。安すぎません?1反7俵だとしても70,000円ですよ。肥料と農薬で利益が飛ぶんじゃないかと。
(※補足:例年の1俵の買取価格は12,000円程度。)

冨永さん

うわー、安すぎますね!その数字きくとほんと現実的。

佐藤

その一方で、有機農業(オーガニック)で栽培した作物は高いですよね。農薬や化学肥料を使わないで野菜を育てているある農家さんが「普通のサラリーマンが買える価格で販売しないと有機農業の手法は普及しない」と話していました。

ただ、有機農業は土さえできてしまえば肥料は少なくて済むし、多品目栽培することで虫や病気が広がらないので必然的に原価が下がると。有機農業はむしろ原価が下がって高くはならないとおっしゃっていて。

冨永さん

うんうん。すごくわかります。有機農業(オーガニック)を普及したい気持ちと、農業の儲からないは良くぶつかる。

まず前提として全体の生産量が少ないことも価格に比例していて。有機農家が消費価格に耐えられるか。有機栽培はとにかく手間はかかるので。全員ではないけど、今の有機農家は多少高くても買ってくれる消費者がいるので成り立っている部分はあると思います。

ちなみに農林水産省は2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%以上にすると目標を掲げていますね。

佐藤

オーストリアの普及率は有機農業大国と言われていることもあり普及率は高いですよね。それに比べて日本は現在0.5%の普及率です。

冨永さん

そうですね。そういう意味では最初の話にも出たけど、ちゃんと普及するには一定数の量も必要となるため、大企業の参入や規模の大きい有機農家がもっと増えてこないと達成するには難しい数字な気がしている。

これは仮説ですが、慣行→有機にしようとした場合、今まで慣行農業を行ってきたため、有機農業に適している土かわからない。そうなると土づくりから行わないといけない。作付けをしても収穫できるか不明。A品よりもB品が増える。収入が安定しない。行く先不安。ある程度収益が大きいところが参入するしかない可能性もある。

佐藤

有機単作で栽培できると単純で楽なため、販売価格を下げることができるという考え方もあるか。

冨永さん

有機JASでも*ボルドー液のような使用可能な農薬あるので、あくまで手段だなと。
*殺菌剤として使われるボルドー液も使用可能(硫酸銅と界面活性剤が主な原料)

佐藤

世の中に広めていくには、法律(法や政策)の施行や活用が大事だったりする。良い悪いは別にしても、補助金や強制的な進め方で普及できますからね。ボルドー液もいい事例です。ちなみに、JAS規格*を取るメリットってあると思います?

* JAS規格とは…「有機農産物」として出荷・販売するには、JAS規格による検査に合格する必要がある。JAS規格とは、農林水産大臣が制定した「日本農林規格」のことで、品位・成分・性質など品質に関係する基準、生産方法に関する基準が定められている。このJAS規格を満たし、検査に合格すると、「有機JASマーク」を付けることができるようになる。「有機JASマーク」がなければ「有機〇〇」と表示できない。

冨永さん

The Hasune Farmの経営スタイル上、JASを取る必要性がないと思ってます。

佐藤

なるほど?でもThe Hasune Farmは有機栽培ですよね?

冨永さん

はい、自分たちの畑は有機栽培でやってます。ホームページには一応ちゃんと書いてはいて。ちなみに余談だけど、都市部の農家で畑の前で直売をやっている方がいるじゃないですか。買いにくるお客さんは、どんなに農薬がかかった野菜でも安心安全な野菜な野菜だと思い込んでいる人が多いって聞く。“安心”は農家の顔が見えるからそうなのですが、”安全”かどうかは本来別問題なのに。

※有機栽培(有機農業)とは…「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」と定義されている。

※無農薬栽培とは…その名の通り、生産期間中に全く農薬を使用しない栽培方法を指す。が、全く農薬を含まない農産物をイメージする人が多い。 実際には土壌に農薬が残っていたり、他の畑から飛散してくることも考えられる。農産物に全く農薬を含まないことを示す厳格な基準やそれを認定する機関がないため、誤解を招くことがないように、現在は「無農薬」と表示することが禁止されている。

佐藤

いやー。なんでなんですかね?不思議。

冨永さん

そう、不思議。きっと顔が見える効果なんだろうな。都市部の農家は近隣の目を気にして農薬をまくんですね。いわゆる人通りの少ない時間帯を選んでいる。それは宅地に隣接してる場所が多く、農薬散布をしているところを見られたくない。また、宅地に農薬が飛んでくるのでは(洗濯物など)と懸念されることが理由だったりする。

佐藤

冨永さんは有機栽培を普及したくてやってるんですか?

冨永さん

もっと普及すれば良いとは思いますが、それ以上に有機栽培の方が奥が深くて面白いんです。

佐藤

へーそうなんだ!

冨永さん

乱暴な言い方ですけど、慣行農業で例えばキャベツをつくるのに、この時期にこの肥料をまいて、種まいて、この時に殺菌剤をまくというマニュアルがある。こういう農家さんは、はっきり言って思考停止状態。もちろん考えて栽培されている方もたくさんいる。

有機農法は、なぜ虫がつくのかとか考えたり、いろんな知識や技術を学んだ上で自分の畑に自分でアジャストしていく。土のこととか掘り下げて考えていく、この奥深さが面白い。有機野菜だから美味しいという人がいるが、それは必ずしも正しくない思う、発想が。慣行農家だから美味しくないとかも同じ。野菜の栽培を突き詰めた仙人みたいな人が作ったのなら美味しいかもしれないけど。

佐藤

有機肥料も化学肥料も植物が必要な無機物は同じだからあげ方が大事ですよね。
※植物が成長するのに必要とする無機物(窒素・リン酸・カリウム)は有機肥料も化学肥料も同じなので、タイミングや量が大切。

冨永さん

そうそう。

佐藤

思考停止状態は会社でもおきてる。あーそれすごいわかる。なんでも売れる時代があったし、その時は考えなくてもよかった。野菜を育てても、肥料を上げないで育つとしたら何なのか、農薬をまかなくても虫が寄ってこないのは何なのか。有機だから美味しい、慣行だから美味しくない、これを科学的に分析した人はあまりいないのではと思う。

冨永さん

多分そうだと思う。有機を自身で取り入れてる人は思想タイプですね。傾向として。

佐藤

そうですね。

冨永さん

特にうちの野菜を買ってくれる人には、やたらとヨガやっている人が多い。スピリチュアル系の人が常連になってくれている。

佐藤

ということは、冨永さんが考えている思想にマッチしているんでしょうね。

冨永さん

そうですね、有機とか、無農薬で作っていることがマッチしているんでしょうね。思考停止については農業をしながら自分で考えていて、目的と手段を整理するといろんな広がりが見えてきた。例えば、マルチを張りたくない。張らない方が楽だし、回収もしなくてよい。けど、マルチを張らないと雑草が生えてくるし、防寒も必要。これが普通の考え。

佐藤

うん。

冨永さん

で、ここで改めて考えると、マルチ*を張ることが目的になってきている。マルチを張ることは手段でしかなくて、それならそこらへんに生えている草をかぶせてもいいよね、というふうになるわけです。こういうのが農業にはすごく多いような気がしていて。自分で学んだ農法をベースに、どんどん新しい方法にチャレンジしていけば、農業がよりおもしくなるし、発展もする。一方で、戦後の合理主義によって使われなくなった先人たちの知恵や農法を見返すと今の時代にあったものもあると思う。手段は柔軟に考えていきたい。

*マルチとは…マルチ(マルチング)フィルムとは、作物の株元を覆うフィルムを指す。マルチ(マルチング)を行うことで、土壌水分を蒸散を抑える効果があります。また土壌温度変化が緩やかになるので、作物に良好な環境を作ることが出来る。また雑草の抑制や肥料の流出抑制、土壌中の病原菌による被害の抑制など様々なメリットがあると言われている。

佐藤

いやー、今の話わかるなー。目的と手段をはき違えるパターンはよくある。未利用資源を活用するために作られた6次化施設が、未利用資源がないときに、施設を回すがために未利用でない出荷できるレベルの青果を使っている話もある。しょうがないことではあるんですが、これが常態化すると未利用資源活用という目的がだんだん薄れてくる。

冨永さん

それも、ありますね。

佐藤

農産品を販売していて、脱プラの観点から包材のビニールをなくしたい。これを考えていくとエコなビニールにしようとか、いやカゴがいいんじゃないか、何回も使えるし、いやいや農家さんかごに詰め替えるの大変じゃない?野菜痛むしとか。

冨永さん

そうですね。

佐藤

最終的に、そもそもさ、袋いる?

冨永さん

そもそも、何もいらない。

佐藤

何もいらない、丸のまんまでいいんじゃない?そういう思考になってくる。1個なのにきれいにビニールに入れて持ってくるおばあちゃんとかがいて。そのまま袋に入れずシール貼るだけでいいのでは?

冨永さん

いや、ほんとそう。極端に言えば野菜の上から直接貼ってもいいわけですよね。

佐藤

冬瓜とかそうなんです。おばあちゃん、冬瓜なら袋なくて大丈夫だって。って。

冨永さん

ははは、いやー、わかるわー。農業って家族経営とか個人でやっているから、より変化が起きにくい。企業とかだと、指摘しうる人がいる。

佐藤

地方の農家は、ほかの人の畑に入らないというのが掟としてある。

冨永さん

あー、それすごくありますね。情報共有をしない。

佐藤

多分、何百年前は共有していたと思うんです。

冨永さん

あ、そうですか?

佐藤

一番防がなきゃいけないのは飢餓じゃないですか。採れなかったら困るし。ほかの畑手伝うよとか。

冨永さん

うんうん、なるほどね。村とかまとまった単位で農業をしていましたもんね。昔以上に情報が入ってないんでしょうね。

佐藤

都市農業で共有はありますか?

冨永さん

ないですね。集まりはあるけど、立ち話程度。都市農業は余計共有がないと思いますよ、不動産だから。土地を守らなきゃいけない。

佐藤

名言。都市農業は不動産。

冨永さん

ただ、各農家の農法をデータベースにしようと考えている人も多い。

佐藤

思考停止状態が動き出した?

冨永さん

いや、それは外部ですね。農業ベンチャーとか。実際に農業をやってない人。私も、最近思考停止状態だなーと考えていて。改めて自分の経営スタイルを考え始めると、自然と自分は目的と手段を頭で整理してやってたんだなと気づいた。売り方も手段から入らないで、こういう人たちに届けるにはどうしたらいいか。それが、受け取りスポットを作っていってそこに野菜を置いてくる仕組みになっていった。

販路もスーパー、市場持ってく、野菜セット送る、収穫体験、これらは手段でしかない。目的が先にあって、その中に売り方がいくつかある。その手段が合わなければ自分で作っていく。自分たちはマンパワーが少ない、届けたときに家にいなかったらどうしよう。そういう制約条件を整理していくと、受け取りスポットを作って渡す手段を作った。

佐藤

うん、確かに。貸農園も野菜を作りたい人が作れる環境を整えるが目的ですもんね。不動産ビジネスなんですけど。
目的が手段化したって自分で気が付いたこと他にもありますか?

冨永さん

ありますよ、日々感じています。いんげんのネット棚あるじゃないですか。研修先ではインゲンの収穫終わったら棚を片付けると教わった。で、あれを再利用できないかなと思って。骨組みとネットをかたずけずにそのまんま。だったら人数揃えてそのまま移動させればいいと思って、みんなでよいしょで持ち上げて移動させた。

佐藤

ははは!

冨永さん

結果的にみんなでよいしょできた。25mくらいの棚。あれ、面倒くさいんですよ、作るの。先日農家さんと話したんですけど、つるなしいんげんを期間短く何回かに分けて定植すれば、つるありインゲン並みに収穫できる。

佐藤

その分場所が必要ってことですよね?農地が広くないと反収下がりますね。

冨永さん

そうそう、なのでうちには向かないかもしれないけど、その考え方はありだなって。いや、楽なのがいい。片付け楽なのがいい。

佐藤

ははは、ほんと農家ですね。楽な方がいいに決まっているし、その欲って大事ですよね。楽したいっていう。それが技術を生むわけだし。

佐藤

連作障害避けるために移動させるんですね。いんげんとか。

冨永さん

そうそう。

佐藤

連作障害って絶対起きるんですかね。

冨永さん

起きやすい野菜はあります。ナス科とかが特にそうですね。

佐藤

埼玉のある農家さんが、その場所でなった実がその場所に落ちて広がっていくんだから連作障害は起きないんだと研究している人がいる。

冨永さん

いやー、すごくわかるそれ。

佐藤

植物はそのように繁栄してきたからよくわかる考え方だなと。もちろん品種改良を重ねてできなくなってきたのかもしれないけど。固定種ならそれはできやすいのではと。過去ルタバガというカブで実験をしたら起きなかった。実が小さくなった気はしますが。

冨永さん

そうなんですよ、連作障害っていうのがちょっと腑に落ちないんですよね。わかる。

佐藤

連作障害が起きるというという概念がそもそもある。いや待てよ、連作障害は起きないかもしれないって考えると、あ、思考停止に陥ったなって。

冨永さん

そうね、全て疑うっていうね。

佐藤

有機でつくると収量(反収)て減るんですか?単価が高いのは手間がかかるからですか?

冨永さん

そこが、正直わからないんです。有機だと単価が高いのはなんでだろうと。僕の場合、単純にその値段で売らないとやっていけないから、有機とか関係なく、農業を成り立たせるために価格を決めている。

需要サイドから考えて供給量が少ないから価格が上がるというのはわかる。ただ、供給サイドから考えたときに、世の中の有機野菜が、コストを積み上げて高い価格がついているのかがわからない。ただ、確実に言えるのは慣行栽培の規模の経済で単価が下がっている。だから慣行の野菜は安い。

佐藤

いや面白い。有機って高いという概念が紐づいている。慣行は面積ができるから安い。では有機は大規模でできるのか。

冨永さん

規模の原理が働くのかどうか。

佐藤

米は有機だと収量が20%程度減るとよく聞きます。これは仮設なのですが、人件費の問題はあると思うが、米を栽培するのに、有機肥料を化学肥料なみの効果がでるほど入れたとすると、費用が何倍にもなってしまうのではないか。でもそれで価格が高くなるならわかる。

冨永さん

うん、わかるわかる。

佐藤

だけど、そうでないならわからない。

冨永さん

そうね、そしてそうでない気がする。そうでない気がするなー

佐藤

ははは

冨永さん

一つは有機で栽培する農家は小規模農家で直接消費者に売っている方が多いので価格決定権がある。それは高くなる傾向の理由になる。有機農家だから一定量B品が出るのはそうだと思う。B品が多いとA品が少なくなる。そのせいでA品の収量が下がるならわかる。それならB品をうまく活用すればいい。私が研修した先は3haでしたが、B品がでると畑でポイポイ捨てる。

佐藤

B品の収穫する人件費がかさむと痛いとか、畑に返れば土になるからいいと考えているんでしょうね。

冨永さん

原価計算をして価格を決めている人は少ないと思う。そうすると、どこで値段が上がるのか、市場が作っているんでしょうね。構造的な問題だと思います。流通のところとか。人参はいくらで買ってもらえる業者がいるから原価計算しなくてもいい。これは有機に限った話ではないけれど。

佐藤

有機JASが数%としかないという希少性で高くなっているということなんでしょうね。

冨永さん

実態はどうであれ、世論は付加価値があるモノだと思っている。

佐藤

希少性が高いものも、需要がなければ高くならないですもんね。そういう意味で有機JASが作った希少性はすごいですね。最後に冨永さんが考える、「有機農業の本来の目的」「有機農業を拡大する意味」「有機農業の価値」を教えてください。

冨永さん

私はできるだけの多くの農地を残したい。なぜかというと今後の持続可能は循環型社会において、地域社会の中で農地は重要な役割を担えるから(ここを話すと話が長くなりそうなので割愛)。その目的において、農法は慣行栽培より有機栽培の方が良いと思っている。だから有機農法は手段でしかなくて、もっと極端に言えば野菜を作るということ自体も私にとっては農地を維持する手段に過ぎない。農地の少ない都市農業でやっているからこその視点なのかもしれませんが。

一般論として有機栽培は慣行農業に比べて環境負荷や食の安全性の観点でより良い農法だと思うので、もっと普及してほしいと思っています。

目的と手段をはき違えることは、普段から「思考」していないとそれに気が付けなかったりする。今ある当たり前を疑ってみる。なぜこうなのか「考えること」そして「行動すること」これをバランス良く取り入れて生きていくこと。今ある正解は100年後不正解かもしれない。そんな楽観的な心持ちで「考え」「行動する」ことが人生を楽しむコツなのかもしれない。そんなことを考える公論だった。(佐藤一成)

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