Shokuyokuマガジン編集長の平井巧が書く平熱エッセイ。
食のことも、食以外のことも、いろいろ思ったことを書いていきます。
朝起きると決まってコーヒーを飲む。コーヒーをすするひとくち目で、その日の体調がわかる。コーヒーの苦味と酸味をちゃんと感じ、ふたくち目もすんなりすすれるときは体調がいい。ひとくち目でコーヒーの味と香りを強く感じずに喉越しがよくないとなると、もうふたくち目が遠い。こんなときは体調がよくない日だ。ちなみにコーヒーは必ずホットでないとならない。そうしないとお腹ヨワヨワだから、お腹を壊してしまう。
コーヒー以外にも、体調を測るバロメーターがある。例えば、朝起きて鏡に映る自分の顔色がねずみ色の時は、気が重いことがある証拠だ。ジムのランニングマシンですぐ息切れするときは、その日は身体的な無理をしない。週イチで通う中華料理屋の餃子ライスセットの味でも体調を測れる。餃子や、セットについてくるわかめスープの塩加減を強く感じるときは体調が悪い。コーヒーは味が弱いとき。餃子は味が強いとき。体調が悪い目安もややこしいのだ。
話は変わり今年の5月、ぼくは新型コロナ感染症に罹った。都内のホテルで療養していたとき、困ったことがあった。毎日体温を測って看護師に報告しなければならないのだが、ふと気づいたのだ、自分の平熱を知らないことに。本当はいけないのかもしれないけど、なぜか焦ったぼくはとりあえず「平熱っぽい体温」を看護師に伝えていた。
数日後に事情を看護師に話して、無事に療養を終えたのだが、ホテルを出た帰り道、一番はじめに思ったのは「平熱はちゃんと測って忘れないでおこう」だった。でないと、いま発熱しているのかどうか客観的に測れやしない。
このときから、コーヒーや餃子ライスで日常の違和感に気づくことも大事だけど、平熱を意識して、「いま普通だな」と気づけることも同じように大事だと思うようになった。
毎日を守ることの大切さとむずかしさは、昨年から嫌というほど感じてきた。食べて、仕事して、人と話して、風呂入って、寝る。身の回りのことを「普通」として整えながら、日々の差を見逃さないようにする。そのために、自分を客観的に見るための「体温計」は常に持っていたいし、「普通」を感じていられるように、きょうも平熱でいたい。
2021年9月22日 平井巧